[書評] 顧客を読むマーケティング:ハーバード・ビジネス・レビュー2013年10月号

ハーバード・ビジネス・レビュー2013年10月号:顧客を読むマーケティングでは、コトラー氏がビックデータを語り、ネスレ日本の高岡氏が「頭冷やして見てみろよ」と諭しています。他にも興味深い論考が揃っており、面白く読むことができました。不確実性の高い今のマーケティングを考えてみたいと思います。

加えて、2013年10月初旬に読書会開催します。末尾に記載しておりますので興味のある方は参加検討いただけますと幸いです。

誰がマーケティングを実践しているか

フィリップ・コトラー氏は『コトラーの戦略的マーケティング』の中で、マーケティングを「どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げること」と定義しています。

上記の定義に従えば、個人的には、リーン・スタートアップの方がコトラー氏の定義に近い活動をしている気がします。(今月号のハーバード・ビジネス・レビューは『リーン・スタートアップ』と相性が良いように思います。マーケティングどっぷりの方には馴染みがないかも知れませんが、一読をお勧めします。)

リサーチ・宣伝・広報・営業の方よりも、リーン・スタートアップの手法を使って顧客と価値の結び付けを行っているエンジニアの方がより直接的に顧客へ価値を届けている気がします。しかしその活動は、マーケティングとは呼ばれず、”顧客開発”とか”ビジネス・ディベロップメント”といった呼ばれ方をしています。

高岡氏は、今月号の「消費者はデータから見えない」のコラムの中で以下のように述べています。

すべての機能、すべての活動においてマーケティング力を発揮し、それを付加価値に結実させなければならない。すなわち、マーケティングは組織内のあらゆる部門に求められる。間接部門も例外ではない。

論考を読む限り、高岡氏は全社員がマーケターとなるべきと考えているようです。もしそうなれば「社員に求められる役割」の一つとして全員がマーケティングを行うため、”マーケティング部門”や”マーケター”などはなくなっていきます。

一方で、今月号の「GE流マーケティング徹底術」を読むと、一人ですべてのマーケティング・スキルを身につけるのは無理で、スキルを補完しあうような運用を考えた方が現実的なようです。

本稿では、GEにのマーケターに求められるスキルとマインドを4つの役割と8つのケイパビリティ(およびケイパビリティを構成するスキルと定義の一部)という形で紹介されています。これがまた壮大です。(ただし、本稿は3年前の執筆ですので、現在の成果について知りたいところではあります。)

不確実性が高まっている現代において、スタートアップのような機敏さで顧客への価値提供を考える必要性が高まっている気がします。そして、マーケティング活動とは特定の部署で行われる機能から、あらゆる部署に取り込まれる組織運営の考え方に変化しつつあるように思います。

スタートアップのようにマーケティングを考える

コトラー氏が『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』で提示したマーケティングの基本手順は以下の通りです。

  1. 調査(Research)
  2. セグメンテーション(Segmentation)/ターゲティング(Targeting)/ポジショニング(Positioning)
  3. マーケティング・ミックス(Marketing Mix)
  4. 実施(Implementation)
  5. 管理(Control)

特に有名なのが、STGと呼ばれるセグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニングの部分と、マーケティング・ミックスの部分でしょう。

一方でリーン・スタートアップではアイデアの構築を最小限の形で素早く行い、計測結果からいかに学び次のアクションにつなげるか、そのサイクルをいかに短い期間で行うかが重要であると述べています。

すなわち、コトラー氏が手順を示したのに対し、リーン・スタートアップはそのサイクルをいかに短期間で行い何を学ぶべきかを示しており、組み合せて活用することが可能です。そして、組み合わせる事で、今の時代に適応しやすくなると考えています。

コトラー氏は今月号の「ビックデータはマーケティングを変えるのか」の中で、ソーシャル・メディアやビッグデータからは顧客の行動(ビヘイビア)しか掴めず、だからこそ行動から顧客の態度・思考(アティテュード)を読み取る姿勢が重要とおっしゃっています。アーティスティックな視点を忘れていませんか、と。

これは、リーン・スタートアップにおける実用最小限の製品(minimum viable product, MVP)の検討において重要な視点となります。最小限の製品を考える上で「ビヘイビア」と「アティテュード」を分けて考えるのは、赤子を二つに裂くのに等しいとさえ言えます。パンを二つに分けても価値は残りますが、赤子を裂いては価値は残りません。当たり前のように見えて、実は注意すべき点だと思います。

実用最小限の製品(MVP)が低品質とは限りません。今月号の「顧客は情報に飽きている」で述べられているように、適切な舵取りがされていれば、むしろシンプルな製品の方が顧客満足につながります。

本稿は顧客動線の仮説を組み立てる上で参考になります。ユーザーの動線設計として(1)情報の舵取りによってユーザーを誘導し、(2)信頼と評価の舵取りによって購入のアティテュードを高め、(3)選択肢の舵取りによって「選択しない」を防ぎ自社の業績につなげるという考え方は、納得感が高く、その製品が本当に顧客満足を満たしているのかどうかの検証方法を導きやすくします。

蛇足ですが、情報大爆発な昨今、顧客が多すぎる情報に辟易しているのは周知の事実でしょう。しかしながら、自分たちのサイトの情報を減らしてしまうと他社へ流れてしまいかねず、結局次から次へと情報を生産して増やさざるを得ないと考える企業も多い気がします。シーナ・アイエンガーの『選択の科学』でも紹介されていましたが、一度顧客が選択を迫られれば、選択肢を絞ることで顧客の「選択しない」を防ぐことができます。何かを売るために闇雲にネットを活用する前に、価値仮説と成長仮説を明確にした方が良いかも知れません。

本当に顧客に価値を届けているか見えにくい時代

繰り返しますが、本当に顧客に価値を届けているかどうかが見えにくい時代になっていると感じています。そのため、検証や方向転換(ピボット)が重要であり、リーン・スタートアップの考え方を組み合わせることで、そのサイクル期間を短縮するべきだと考えています。

検証に関しては、今月号の「実験はアナリティックスに勝る」や「顧客の反応をリアルタイムで収集する究極の方法」が参考になります。初めから何が誰にヒットするかは分からない。あるのは仮説という名の思い込みだけです。だからこそ実験が必要であり、検証によって知見が貯まります。

とはいえ、マーケティングに詳しい方であればこの部分は既知かも知れません。ABテストは日常でしょうし、顧客反応のリアルタイム収集も、モバイルを活用し顧客のアティテュードまで収集しようとする部分は新しいかも知れませんが、考え方そのものはネット広告の効果測定に近いものがあります。この程度は他社も行っている、という感覚で読むと良いのではないでしょうか。

今月号の「クリエイティブ広告の成果は測定できるのか」も、測定結果そのものよりも”測定出来る”という点が重要です。

リーン・スタートアップでいう支出型成長エンジンでビジネスを営んでいる企業にとっては広告は必要不可欠なツールであり、広告効果の向上はビジネスの成長速度を左右します。ライティングや色といった要素はABテストで対応出来るかも知れませんが、コピーやクリエイティブといった要素は本稿のような考え方が参考になる気がします。

一方で、今月号の「消費者はデータから見えない」で高岡氏は、ITが発達したからこそ、人間にしかできない本質的なニーズの読解こそがビジネス・チャンスを手中に収め、高い業績につながる鍵であると釘を刺します。高岡氏が説くように、人間力によるマーケティング・リテラシーは模倣困難であり、企業の競争優位性につながると思われます。ただし、補足しますと、分析もまた人間力が必要とされます。ゆえに、分析力もまた企業の競争優位性に寄与すると思われます。機械的な分析だけであればデータ・サイエンティストがこれほどまでに不足することはないでしょう。

最後に、未来は誰にも分からないと知っていながら、伝統的企業ほど計画経済にこだわるのは米国でも変わらないようです。そう言えば、『リーン・スタートアップ』でも、従来のやり方からの変更に相当のエネルギーを費やす必要がある点が強調されていました。

今月号の「イノベーションは秘密裏に遂行せよ」では、ステルス型開発を進め、良い結果を表に出し「結果オーライ」な道筋を作ることでスムーズに新規事業を軌道に乗せる方法があることを教えてくれます。今はまだ、そこまでしてでも伝統的企業でビジネスを行う理由があると思います。しかし、その理由は年々弱くなっている気がします。この論考を読んで、伝統的企業は危機感を持つべきなのでしょう。

読書会開催のお知らせ(10月上旬)

今月号はマーケティングが主要テーマでありながら、不確実性を目の前に読むと、スタートアップにおける顧客開発がテーマのようにも読めました。読む人によって感想や連想が大きく異なる気がします。みなさんの様々な意見を伺えればと思っています。

というわけで、2013年10月上旬に今月号(ハーバード・ビジネス・レビュー2013年10月号)を課題本として読書会を開催します。

興味のある方は、お気軽にTwitter(@toshimitsu_hara)もしくはFacebookで私までメッセージを頂ければと思います。詳細お伝えします。















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